んのところへお出で……兄さんはその鐘の音《ね》を湖の底できいているから……お前の来るのを待っているから……」
 といううちに、ルルは立ち上って湖の中に飛びこもうとしました。
「アレ。お兄さま、何でそんなに情ないことをおっしゃるの……それならあたしも連れて行ってちょうだい」
 と、ミミは慌ててルルを抱き止めようとしました。そうすると、不思議にもルルの姿は煙のように消え失せてしまいました。船も……お月様も……湖も……村の影も……朝靄も消え失せて、あとにはただ何とも云われぬ芳ばしいにおいばかりが消え残りました。
 ミミはオヤと思ってあたりを見まわしました。見ると、ミミは最前のまま湖のふちの草原《くさはら》に突伏して、花の鎖をしっかりと抱きしめながら睡っているのでした。今までのはすっかり夢で、待っていたお月様は、まだようようにのぼりかけたばかりのところでした。そうして湖の水はやっぱりもとの通り黒いままでした。
 ミミはワッとばかり泣き伏しました。泣いて泣いて、涙も声も無くなるほど泣きました。女王様の言葉を思い出しては泣き、ルルの顔を思い出しては泣き、ルルと抱き合って喜んだ時の嬉しさを思い出して
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