礼を云っていたと、女王様に申し上げておくれ」
海月はやはりだまって、ユラユラと水の底に沈んで行きました。兄妹《きょうだい》は舷《ふなべり》につかまって、その海月の薄青い光りが、水の底深く深く、とうとう見えなくなってしまうまで見送っておりました。
お月様は今、西に沈みかけていました。かすかに吹き出した暁の風が、二人の船を陸《おか》の方へ吹き送りはじめました。
湖の面《おもて》には牛乳のような朝靄《あさもや》が棚引きかけていました。その上から、まだ誰も起きていないらしい、なつかしい故郷の村が見えました。その村のお寺の鐘撞き堂に小さく小さくかすかにかすかに光る鐘……ルルはそれをジッと見つめていましたが、その眼からどうしたわけか涙がポトポトとしたたり落ちました。
「まあ。お兄さま、どうなすったの。なぜお泣きになるの……」
ルルはしずかにふりかえりました。
「ミミや。お前は村に帰ったら、一番に何をしようと思っているの……」
「それはもう……何より先にあの鐘の音《ね》をききたいと思いますわ。あの鐘は今度こそきっと鳴るに違いないのですから……どんなにかいい音《ね》でしょう……」
と、ミミは
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