ハッ。オオダイじゃろう」
「はい。オオダイ」
「ふうん。そんならそこへ手を突いてみなさい」
 筆者は上り框へ両手を支《つ》いた。
「頭を下げなさい。そうそう」
 婆さんは痩せ枯れた冷たい手で筆者の背中を探りまわして短冊を引っぱり出した。押頂いて、眼鏡もかけずにスラスラと読んでから又押頂いた。
 それから奥へ這入って神棚の上から一本の薪の半分ばかりの燃えさしを大切そうに持って来て、勿体らしく白紙で包んで、紙縒で結わえながら筆者の懐中に押込んでくれた。
「よう来なさった。これを上げます」
 と云って女房の持って来た駄菓子の紙包みを筆者の手に持たした。筆者は懐中から薪の燃えさしを今一度引っぱり出して見まわした。恐らく妙な顔をしていた事と思う。
「これがオオダイだすな」
 婆さんがうなずいた。
「うんうん。それはなあ。この筥崎様で毎年旧の節分の晩になあ。大|松明《たいまつ》を燃やさっしゃる。その燃え残りを頂くとたい。……これから夏になると雷神《かみなり》が鳴ります。その時にこれを火鉢に燻《くす》べると雷神《かみなり》様が落ちさっしゃれんちうてなあ……梅津の爺さんは身体《からだ》ばっかり大きいヘ
前へ 次へ
全142ページ中100ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
杉山 萠円 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング