鳥が松の梢一パイに群れていたり、鼬《いたち》が道を横切ったりした。少々淋しくて気味が悪かった。
 こうしてずいぶん道草を喰いながら筥崎に着くと、中の鳥居の横の茶屋は一軒しかなかったので直ぐにわかった。
 中に這入《はい》ると三十四五の女房と、蟇《がま》みたような顔をした歯の無い婆さんが出て来た。いやに眼のギョロリした婆さんであったが、先に出て来て筆者を見上げ見下すと、
「あんたは何しに来なさったな」
 と詰問した。なるほど頭がテカテカに禿《はげ》ている。着物のお蔭でやっと爺さんに見えないような婆さんである。
 筆者は長い道中の間に用向きをハタと忘れているのに気が付いた。背中に短冊が這入っている事なんか恐らく翁の門を出た時から忘れていたろう。どうして何のために来たかイクラ考えてもわからないので泣出したくなった。
 頭の禿げた婆さんは口をモグモグさせながら、怖い眼付で筆者を今一度見上げ見下した。
「どこから来なさったな」
「梅津の先生のお使いで来ました。あの……あの……」
 今度は貰いに来た品物の名前を忘れている事に気が付いた。
 婆さんは歯の無い口を一パイに開いて笑った。
「アッハッハッ
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