けにほかの者が真似する。喜多流にはそげな左右はない。どこを見て来たか……云え……云いなさい……馬鹿ッ」(梅津朔造氏へ)
「扇はお前の心ぞ。武士の刀とおなじもんぞ。チャント両手で取んなさい」(筆者へ)
「イカンイカン。扇の先ばっかりチョコチョコさせるのは踊りじゃ踊りじゃ――。心が生きねば扇も生きん。お能ぞお能ぞ……踊りじゃないぞ」(筆者へ)
「俺が足の悪い真似をお前がする事は要らん。お前はお前。俺は俺じゃ。馬鹿ッ」(梅津朔造氏へ)
「人に真似されるような芸は本物じゃないぞ」(梅津利彦氏へ)
 =シンミリした穏かな口調で=「謡は芸当じゃない。心持ちとか口伝とかいうて加減するのが一番の禁物じゃ。私が教えた通りに真直《まっすぐ》に謡いなさい。心持ちとか口伝とかいうものはないものと思いなさい。そうせぬと謡が下劣になる」(山本毎氏ほか地謡一同へ)
 =或る天狗能楽師の悪口を云った後=「能は芝居や踊りのように上手な人間が作ったものではない。代々の名人聖人の心から生まれたものじゃ。その人達の真似をさせてもらいよるのじゃ。出来ても自慢にはならぬ。自分のたしなみだけのものじゃ。それを自慢にする奴は先祖なし
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