組さえよければ型の出来栄えは第二第三と考えていたらしい実例がイクラでも在る。
 現在の型では肩が凝《こ》ったり、手首が曲ったり、爪先が動いたりする事を嫌うようであるが、翁の稽古の時には全身に凝っていても、又は手首なんか甚だしく曲っていても、力が這入っておりさえすれば端々の事はあまり八釜《やかま》しく云わなかったようである。
 只圓翁門下の高足、斎田惟成氏なんかの仕舞姿の写真を見ても、その凝りようはかなり甚だしいものがある。記憶に残っている地謡連中の、マチマチに凝った姿勢を見てもそうであった。凝って凝って凝り抜いて、突っ張るだけ突っ張り抜いて柔かになったのでなければ真の芸でないというのが翁の指導の根本精神である事が、大きくなるにつれてわかって来た。
 だから小器用なニヤケた型は翁の最も嫌うところで、極力罵倒しタタキ付けたものであった。そんな先輩連の真似をツイうっかりでも学ぶと、非道い眼に会わされた。

          ◇

 翁が稽古中に先輩や筆者を叱った言葉の中で記憶に残っているものを、云われた人名と一緒に左に列記してみる。アトから他人に聞いた話もある。
「お前が、そげな事をばする
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