二ツ並んで浮み出し、
 一ツは昼の国に照り、一ツは夜の国に行く。

 瞬《まばた》きすれば星となり、呼吸をすれば風となり、
 嚏《くしゃみ》をすれば雷《らい》となり、欠伸《あくび》をすれば雲となる。

 男はやがてむっくりと、山より大きな身を起し、
 ずっと周囲《まわり》を見まわせば、四方《あたり》は岩と土ばかり。
 もとより生きた者とては、艸《くさ》一本も生えて無い。

 男はあまりの淋しさに、オーイオーイと呼んで見た。
 けれどもあたりに一人《いちにん》も、人間らしい影も無く、
 大石小石の果も無い、世界に自分は唯一人。

 青い空には雲が湧く。幾個《いくつ》も幾個も連れ立って、
 さも楽し気に西へ行く。けれども自分は唯一人。

 黒い海には波が立つ。仲よく並んでやって来て、
 岸に砕けて遊んでる。けれども自分は唯一人。

 もとより不思議の大男。家《うち》も着物も喰べ物も、
 何んにも要らぬ身ながらに、相手といっては人間や、
 鳥や獣《けもの》はまだ愚か、艸《くさ》一本も眼に入らぬ、
 広い野原の恐ろしさ。石の野原の凄《すさま》じさ。

 折角生れて来たものの、話し相手も何も無い
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