世の不思議、今眼の前に現われて、
眼は見え耳はきこえても、手足は軽く動いても、
昨日《きのう》為《し》た事今日忘れ、先刻《さっき》した事今忘れ、
自分の事も他事《ひとごと》も、忘れ忘れていつ迄も、
限りない年生き延びた、聞こえ聾《つんぼ》の見え盲目《めくら》。
不思議な王の知ろし召《め》す、奇妙な国の物語。
昔々のその昔、世界に生きたものが無く、
只《ただ》岩山と濁《にご》り海、真暗闇《まっくらやみ》のその中《うち》に、
或る火の山の神様と、ある湖の神様と、
二人の間に生れ出た、たった一人の大男。
金剛石の骨組に、肉と爪とは大理石。
黒曜石の髪の毛に、肌は水晶血は紅玉《ルビー》。
岩角ばかりで敷き詰めた、広い曠野《あれの》の真中で、
大の字|形《なり》の仰向《あおむ》けに、何万年と寝ていたが、
或る時天の向うから、大きな星が飛んで来て、
寝てる男の横腹へ、ドシンとばかりぶつかった。
男はウンと云いながら、青玉の眼を見開いて、
どこが果ともわからない、暗《やみ》の大空見上ぐれば、
左の眼からは日の光り、右の眼からは月の影、
金と銀とに輝やいて、
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