出した。
するとこの様子を見ていた白髪小僧は、何と思ったか忽《たちま》ちむっくり起き上って、大急ぎであとを追っかけはじめた。その中《うち》に美留女姫も一生懸命に走ってお爺さんに追い付いて、何を為《す》るかと思うと、懐《ふところ》から小さな鋏《はさみ》を取り出して、お爺さんが荷《かつ》いで行く袋の底を少しばかり切り破った。そうして、その破れ目から落ちる銀杏の葉を、お爺さんが気付かぬように、ずっと後ろから拾って行きながら、その上に書いてある一字一字を清《すず》しい声で読み初めたが、その一字一字は不思議にも順序よく続き続いて、次のような歌の文句になっていた。
四 石神の歌
「三千年の春|毎《ごと》に、栄え栄えた銀杏の樹。
三千年の夏毎に、茂り茂った銀杏の樹。
梢《こずえ》に近い大空を、月が横切る日が渡る。
流るる星の数々は、枝の間に散り落ちて、
千万億の葉をふるう、今年の秋の真夜中の、
霜に染《そ》め出《だ》す文字の数、繋《つな》ぎ繋がる物語。
春はどこから来るのやら。秋はどっちへ行くのやら。
毎年《まいとし》毎年花が咲き、毎年毎年葉をふるう。
昔ながらの
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