は悪魔の文字だ。これを見ると悪魔に魅入られるのだ。見せる事は出来ない」
 と答えながらなおも足を早めて急いで行く。
 美留女姫は気が気でなくなおもお爺さんに追い縋って尋ねた――
「では貴方《あなた》はそれをどうなさるのですか」
「うるさい女の子だな。山へ持って行って焼いてしまうのだ」
「エエッ。それはあんまり勿体《もったい》ないじゃありませんか。それには面白いお話しが沢山書いてあるのです。妾はそれを読んでしまわなければ、今夜から眠る事が出来ませぬ。明日《あした》からは生きている甲斐《かい》が無くなります。何卒《どうぞ》、何卒《どうぞ》後生ですから妾を助けると思って、その銀杏の葉に書いてある字を読まして下さい。ね。ね」
 と泣かんばかりに頼みながら、老人に追い付いて袖に縋ろうとした。けれども爺さんは尚も意地悪くふり払って――
「そんな事を俺が知るものか。この銀杏の葉に書いてある文字は、藍丸国《あいまるこく》の大切な秘密のお話しで、これをうっかり読んだり聞いたりすると、藍丸国に大変な事が起るのだ。とてもお前達に見せる事は出来ない。諦《あきら》めて早く帰れ」
 と云いながら一層足を早めて歩き
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