留女姫《みるめひめ》』という言葉が、チャンと二行に並んで書いてあったのである。姫は白髪小僧の事は兼々《かねがね》お附の女中から委《くわ》しく聞いて知っていたが、今目の前に自分の名前と一緒にチャンと並べて書いてあるのを見ると、どうしても誰かの悪戯《いたずら》としか思われなかった。
 けれども姫が又急いで次の頁《ページ》を開いて見ると、今度はいよいよ二人の名前が出鱈目《でたらめ》に並べてあるのではなく、この書物には本当に、自分と白髪小僧の身の上に起った事が書いてあるのだという事がわかった。その第三頁目には王冠を戴《いただ》いた白髪小僧の姿と美事な女王の衣裳を着けた美留女姫が莞爾《にっこ》と笑いながら並んでいる姿が描《か》いてあった。
 もう姫はこの書物から、一寸《ちょっと》の間《ま》も眼を離す事が出来なくなった。すぐに第四枚目を開いてそこに書いてあるお話を次から次へと読んで行くと、疑いもない自分の身の上の事で、姫がお話の好きな事から、身の上話を買いに出かけた事、そうして銀杏の根本でこの書物を見つけたところまで、すっかり詳《くわ》しく書いてあるものだから、全く夢中になってしまって、これから先
前へ 次へ
全222ページ中21ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
杉山 萠円 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング