て、迚《とて》もこんな塩梅《あんばい》では一生涯面白い珍らしい話を聞く事は出来ないであろう。彼《か》の赤|鸚鵡《おうむ》は嘘を吐《つ》いたのか知らん。もし本当にこれから一ツも新しいお話を聞く事が出来なければ、もう一生涯何の楽しみも無くなってしまったのだから、死んだ方がいくら良《い》いか知れない。噫《ああ》、情ない事になった。詰《つま》らない事になったと、しくしく泣きながら、街外れの只《と》ある河岸まで来るともなく歩いて来ると、そこに立っている大きな銀杏《いちょう》の樹の根元に腰をかけて、疲れた足を休めようとした。けれどもまだ腰をかけぬ前に姫はその銀杏の樹の根元に思いがけないものを見つけて、忽《たちま》ち躍《おど》り上らんばかりに喜んだ。その時姫が見付けたのがこの白髪小僧と題した不思議なお話の書物であった。
 姫はこの書物が、竜《りゅう》のようにうねった銀杏の樹の根本に乗っているのを見つけると直ぐに、この書物こそ自分が今まで一度も見た事のない書物だと思って、思わず駆《か》け寄って手に取ろうとしたが、又ハッと気が付いて立ち止まった。見れば大分古びた書物のようだから、これは屹度《きっと》誰か
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