くとも、身の上話しならばどんな人を捕まえても、十人が十人違っている筈《はず》だから、同じ話を二度聞かされる心配はない。そうしてその御礼には、書物を一冊買うだけのお銭《あし》を遣れば、貧乏人等は喜んで話して聞かせるに違いないと、こう考え付くと美留女姫は、最早《もう》一秒時間も我慢が出来なくなった。眼の前の鸚鵡の事も忘れてしまって、直ぐに自分の室《へや》に帰って帽子を頭に載《の》せるが早いか、たった一人で家を出て只《と》ある人通りの多い橋の袂《たもと》へ駈けて来た。
 そこに暫《しばら》くの間立って待っていると、間もなくよい都合に向うから、お誂《あつら》え通りの奇妙な風体《なり》をした白髪頭の人が遣って来たから、姫は天にも昇らんばかりに喜んで、いきなりその人の前に駈け寄って袖《そで》に縋《すが》りながら十円の金貨を出して、身の上話をしてくれと頼んだ。その人は頭に高い帽子を三段も重ねて耳の処まで冠《かむ》っていた。そして身には赤い襯衣《しゃつ》を着て、青い腰巻の下から出た毛だらけの素足に半長《はんなが》の古靴を穿《は》いていたが、赤い顔に白髪髯《しらがひげ》を茫々《ぼうぼう》と生《は》やして
前へ 次へ
全222ページ中15ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
杉山 萠円 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング