酒嗅《さけくさ》い呼吸《いき》を吐《は》きながら、とろんこ眼で姫の顔を呆れたように見つめていた。けれども姫から大略《あらまし》の仔細《わけ》を聞くと、大きな口を開いて笑い出した――
「アハ……。そうか。ではお前はここまでお話しを買いに来たのか。成る程、それは巧い思い付きだ。そうして第一番に俺を捕《つか》まえたのは感心だ。
 世界中で俺位面白い愉快な身の上を持っているものは、他に唯の一人も無いのだからな。では今から話すからよく聞きなよ。俺は小さい時から酒が好きで、どうしても止められなかったんだ。親が死んでも構わずに酒を飲んだ。嬶《かかあ》や小供が死んでも矢張《やっぱ》り酒を飲んだ。家《うち》が火事になっても、打《う》っ棄《ちゃ》っておいて酒を飲んでいた。嬉《うれ》しいと云っちゃ飲んだ。悲しいと云っちゃ飲んだ。昨日《きのう》も飲んだ。今日もたった今まで飲んだところだ。明日《あした》も明後日《あさって》も……大方死ぬまで飲むんだろう。今からも亦《また》、お前のお金で飲んで来ようと思うんだ。これでお仕舞い……目出度《めでた》し目出度しかね。ハハハ。イヤ有り難う。左様なら」
 と云ううちに姫の掌
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