神の舌から生れた俺こそ、真っ先に美味《うま》いものを頂戴せねば相成らぬ」
 と云い張った。四人はこうして暫《しばら》く睨《にら》み合いの姿で黙っていたが、赤鸚鵡はこの様子を見て奇妙な声を出して、ケラケラと笑いながら云った――
「耳の王。眼の王。鼻の王。舌の王。よく御聞きなされよ。よく御味《おあじわ》いなされよ。どなたが先という事はない。どなたが後という事もない。
 皆様|一同《いっしょ》にアッと御驚《おんおどろ》き遊ばすものを近い内に御覧に入れます。
 貴方がたはこの世界の初め、石神の身体《からだ》から出た三つの宝物、白銀《しろがね》の鏡と宝石の蛇と私の役目をお忘れになりましたか。
 私は生れ付いて知っている魔法で以《もっ》て、世界中の事を見たり聞いたりしまして王様方にお話し申すのが役目で御座います。又兄弟の白銀の鏡は、そんな面白い有様を王様に御目にかけるのが役目で、それから宝蛇奴《たからへびめ》は、そんな面白い出来事の初まるようにするのが役目で御座います。
 今白銀の鏡と宝蛇は、南の国の多留美《たるみ》という湖の底に沈んでおりますが、その中で宝蛇は、貴方方四人が一人の藍丸国王となって、初めてこの国に御出《おい》で遊ばしたその最初の御慰《おんなぐさ》みに、世にも美しい怜悧《りこう》な、それこそ王様が吃驚《びっくり》遊ばすような御妃を一人、御話し相手として差し上げたいと思いまして、私に探してくれと頼みましたので御座います」
 これを聞くと坊さんは横手を打って感心をした――
「成る程、これはよい思い付きであった。わし等の主人の石神様が初めてこの世にお出で遊ばした時に、第一番に御困り遊ばしたのは、一人も話し相手の無い事であった。もしも彼《か》の時一人でも御話し相手があったならば、あんなに淋しがりは遊ばさなかったであろう。してその妃は見つかったか」
「はい、三人見つかりました」
「してその名は何と云うのだえ」
「年は幾つだ」
 とあとの三人が畳みかけて尋ねた。
「はい。第一番に見つけましたのは、紅木大臣の姉娘で、紅矢《べにや》の妹の濃紅《こべに》姫と申しまして、年は十六。温柔《おとな》しい静かな娘で御座います。この娘はこの間|真実《ほんと》の藍丸王様が御妃に遊ばす御約束を、兄の紅矢と遊ばしたので御座いますが、もし王様がこの娘を御妃に遊ばしたならば、この国はいつでも泰平で、王様はこの世の果までも、御位《みくらい》に御出で遊ばす事が出来るで御座いましょう」
「何だ、その濃紅姫を妃にすると、この国はいつも静かに治まるというのか。イヤ、そんな静かな温柔《おとな》しい娘では、話し相手にしても嘸《さぞ》面白くない退屈な事であろう。俺達はそんな女は嫌いだ。それにこの国がいつまでも静かでは詰らぬ。何でも何か大騒動《おおさわぎ》が起って、珍らしい事や危ない事や不思議な事が、引っ切りなしに始まらなくては駄目だ」
 とお爺さんは頭からはね付けてしまった。
 これを聞くと赤鸚鵡は、さも困ったらしく首を傾《かし》げて黙り込んでしまった。そうして暫《しばら》くの間何か考えている様子だから、四人の者は待ち遠しくなって――
「これ赤鸚鵡。それではあとの二人の娘はどんな女だ」
「早く聞かせておくれな」
「どこに居《お》るの」
「何を為《し》ているのか」
 と口を揃えて尋ねた。
 赤鸚鵡はこう急《せ》き立てられると仕方なしに答えた――
「はい。それでは申し上げますが、あとの二人は二人共、この世に又とない賢い美しい娘で、一人は紅木大臣の末娘|美紅《みべに》と申し、今一人は南の国に在る多留美という湖の傍《かたわら》に住む藻取《もとり》という漁師の娘で、名を美留藻《みるも》と申します。けれどもその二人の内どちらが王様の妃になるかという事が私にわかりませぬ。それで考えているので御座います」
「何……どちらか解からぬ」
「はい。その二人は、どちらも顔付きから智恵や学問や背恰好《せかっこう》、髪の毛の数まで、一分一厘違わぬので御座います。で御座いますから、どちらが王様の御妃になる運を持っておる女なのか、今では全く区別《みわけ》がつかないので御座います」
「フーム。ではしまいになればわかるのか」
「ハイ。けれども王様の御命の尽きる迄はわからずにおしまいになるだろうと思います。何故《なにゆえ》かと申しますと、もし藍丸王様がその娘のどちらかわかりませぬが御妃にお迎い遊ばすと、どうしても王様の御命は来年中に、丁度その御妃の素性がおわかりになる少し前にお果てになりますし、私や鏡の生命《いのち》も、それと一所に尽きてしまうからで御座います。その代りその間は毎日毎日不思議な話や珍らしい物語の詰め切りで、濃紅姫と千年御一所に御暮し遊ばすよりもずっと面白う御座います」
「ふむ。それは成る程面白かろう
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