身売買のあらわれである。
 青年堕落の直接原因である。
 病毒の巣窟である。
 曰《いわ》く何、曰く何……。
 東京の浅草千束町――詳しく云えば千束町の一部と猿之助横町の一画全部、三町四方に蟠《わだ》かまる三百余軒の醜業窟六百余人の醜業婦は、このような理由で久しい間狙われていた。
 しかし震災前までは当局でもどうする事も出来なかった。浅草区役所の収入の大部分が、彼女達の納むる税金で持っていたためだと皮肉る者もあった。
 それが震災と同時に不許可を申し渡された。記者の勘定するところに依ると、現在では十三軒の果物、菓子店があって、お化粧をつけた女の姿がチラホラしているだけである。もし彼女たちが醜業をすると二十九日間の拘留に処し、写真を撮って所払いにする……こうして取締っていると処の警察では威張っている。
 誠に大英断である。否、誠に結構な「試み」である。しかしその結果はどうか……。
 東京市内付近へかけて八方に散った千束町の醜業婦は、その行く先々で醜業をやっている。

     浅草券番の出現

 浅草では同時に六百人を包容する券番が許可された。
 この券番許可の裡面には、千束町の繁昌に依
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