日まで、警察の方でも仕事が多過ぎて手のつけようがないので、仕方なしにポツリポツリとやっている状態ですから、そう隅々まで行届きますまい。風紀の取締なんかは当分ほったらかしておくつもりらしいのです。怪しい処を一々手を入れていたら際限がありませんからね」
 云々と。以て推して知るべしである。
 一方に、震災当時の有様を今日まで残している処もある。去年の秋あたり、日比谷、上野、小石川のバラックの裏手を夜十二時過ぎに通ると、そこにもここにも怪しい男女が蠢《うご》めいていた。その付近は真面目な男女が通れなくなっている位であったという。
 東京郊外、川向うの深川、本所、向島、亀井戸あたりの暗《やみ》から暗に続く木立の中や、バラックの空隙がどんな状態であったかは読者の想像に任せる。
 この冬の寒気はこの風俗をその筋の取締以上に厳重に禁止した事であろう。しかし追々《おいおい》と近付く春のぬくみは、又もやこの醜態を東京市の内外に復活するであろう。

     東京は文明国の都市か殖民地か

 東京市内に於ける魔窟大繁昌の第二の原因は極めて皮肉で面白い。即ち震災を機会として試みられた当局の「私娼撲滅」である
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