た狼が横行するに任せてある……」
といったような風説、又は事実が口から口へ、又は新聞紙上にあから様に伝えられた。それ程に震災後の東京は飢《う》えていた。この飢に堪え得たものは教育ある上流人士よりほかにない。否、その上流の男女があの震災後如何に身を護りかねて来たか……堕落して来たかは前に述べた通りである。況《いわ》んや下層社会に住む職業婦人がどうして身を護り得よう。
ライスカレー一皿で要求に応ずる女が震災直後に居た事は前に述べた。その後東京市中の秩序が回復して来るに連れて、そのライスカレー一皿の価十銭が五十銭となり、一円となり、五円となって来たことは云う迄もないが、しかし、それは只高価になった迄の事である。野天で売買されなくなっただけであることは云う迄もない。
安飲食店激増の理由
震災後の東京で最も増加したものが飲食店と自動車である事も前に述べた。殊に飲食店は東京市中のすべての半町|毎《ごと》に一つ宛《ずつ》位は必ずある。多いところは一町内の過半数が飲食店と云ってもいい位である。これ等の飲食店は一般東京市民の要求に依って出来たもので、市民と彼女達の仲介業者であった。結
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