局、震災後の東京でその甚だしく増加した商売は、職業婦人の第二職業という事になる。
 彼女たちは現在でもこうした安飲食店から、高級な処ではカフェー、洋食店にまで行き渡って第二職業を本職としているのが多い。
 一方に復興の東京は彼女達職業婦人の多数を第一の職業に呼び返した。その上に更に夥しい新米の職業婦人を迎え入れた。震災の御蔭《おかげ》で第二の職業を知った職業婦人の多数と、まだ第一の職業しか知らぬ新米の職業婦人の多数とは、こうしてゴッチャになって東京の復興に努力し始めた。

     震災後の淫風と生活難の誘惑

 昔から大変災のあとに必ず吹き起る事になっている淫風は、蕩々として彼女達職業婦人を包んだ。第二職業の味を占めたものも、占めないものも、一様にポーッとなった。
 更に、バラック都市のアクドイ色彩は、夜となく昼となく彼女達を刺戟した。着物道楽の流行で、震災前よりも一層デカダン式にリファインされた男性の姿は、彼女達を朝な夕な眩惑した。
 第一の職業しか知らぬ新米の職業婦人は、次第に第二の職業を習いおぼえて来た。
 そればかりでない。
 震災後の東京に於ける生存競争が、震災前のそれより
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