み込んでいる。

     不浄世界と紙一重

 職業婦人が見た実際の世界……それは、吾家の忠孝仁義から他家の温良貞淑へ渡されることに慣れていた、在来の日本婦人の大部分が夢にだも想像し得ないものであった。
 彼女たちは驚いたであろう。魘《おび》えたであろう。しかし、生活の鞭に追われて毎日毎日この社会に出入りしているうちに、彼女達は次第にこの不忠孝不仁義の気儘さに見慣れ、聞き慣れて来た。そうして、男と同様に社会に働く彼女たちには、矢張り男と同様に享楽する権利を与えられなければならぬ理由を認めた。
 彼女たちが男性の弱点――もしくは裡面というものを真実に知り得るのはこの時代でなければならぬ。あとは只、これに共鳴するかしないかという紙一重の境目《さかいめ》に彼女達は毎日毎日立たなければならなかった。
 しかし、因襲的につつましやかな日本婦人の血を受け継いだ彼女たちの大部分は、幾度《いくたび》か迷いつつ踏みこたえた。
 けれども又一方に、どうしても踏みこたえ得ない立場に陥ったのもあった。

     堕落を早めた地震

 彼女達職業婦人はどこに雇われたにしたところが、極めて低い階級に辛棒せねば
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