その新世界の夜を飾るイルミネーションを、彼女達はベツレヘムの星と仰いだ。そこに存在するあらゆるものを、その新たに解放された眼で見、耳で聴いた。そのために彼女達は現代婦人の中で最も新しい頭を持つことになった。
 教育、理智、常識、道義心、そのようなものに囚われた婦人とはまるで違った意味で社会を理解した。彼女たちは社会をありのままの状態で知った。
 彼女達職業婦人は、雑誌を読んで新しい事を知ると同時に、これを実地に見ることが出来た。新しい言葉を知った時は、実地にこれを使った時であった。新しい歌をおぼえた時は、異性の喝采を受けている時であった。同様に社会の暗黒面、又は人間の弱点なるものを想像でなく体験する事が出来た。
 彼女達は生活というものの本当の意味を知ると同時に、ストライキ、サボタージ、反逆、裏切り、社会主義、享楽主義、刹那主義なぞいう言葉の本当の意味をも知った。知ると同時にこれを実行し得る自由を持っていた。何となれば、彼女達は自分で働いて喰っているからである。
 彼女達はこの意味で新東京の新文化の表面と裏面とを同時に支配している。そこに最も自由な華やかさと、最も深刻な暗さとを刻
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