」と、「あたま」との三つである。その中で最もねうちある資本が、その「美」であることは云うまでもない。だから彼女たちの大部分はうら若い連中である。
 彼女たちのこの三つの資本のうち二つか三つかが使い切られた時、彼女達の職業婦人としての価値はどうなるか。彼女達は如何にして生きて行こうとするであろうか。それは今から十年後の東京に来て見なければわからない。又彼女達自身も考える余裕を持たぬであろう。
 彼女たちはこの三つの資本を最も大切に且つ最も厳重に保護してくれる人々、即ち旧式の家庭や社会から逃れ出た。彼女達はこの意味に於て全然解放されていると云ってもいい。彼女達が自身に金を儲けるという事は、直《ただち》に家庭と社会に対する精神的の自由を意味するからである。

     職業婦人の新智識

 彼女達は、その「健康」、「美」、「あたま」という三つの資本を自分の思う通りに使い棄て得る新世界に、「職業婦人」の名に依って解放された。
 その自由境は五色七彩の目も眩《くら》むばかり輝くバラックの都市であった。彼女たちの「あたま」はあまり要求しない代りに、彼女達の「美」を無理に要求する震災後の東京であった
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