が、それが今では頽《すた》れて来た。平民的になって来た。
これはまことに結構な事であるが、一方から見るとあまり面白くないことがないでもない。
見識を取るとか威張るとかいう事は、一面、家内万事を儀式張らせる事で、殊に家柄を重んずる華族とか、家風を八釜しく云う町人とかは、こうして家風の取締をしたものであった。そのために深窓に育った子女達は、非常にその世間を狭められると同時に、堕落の機会をも亦甚だしく狭められていたのである。
デモクラシーと名づくる春風は、次第にこの善良なる美風を吹き破り始めたのであった。某華族や某富豪の家庭の素《す》っ破《ぱ》抜き記事が、次から次へと新聞を賑わした。デモクラ式男女関係を作る事が、新人の使命であるかのように思わるるに到った。
天のデモクラ宣伝
この傾向に大油をかけたのが過般の震火災であった。あれは天が人間界に試みた大々的デモクラ行為であった。あの名状すべからざるドサクサが、どれだけ上流の家庭に平民式を煽《あお》り込んだか。現在の新聞紙上で、上流の家庭の紊乱《びんらん》が如何に平凡な材料として取り扱われているかは、読者の熟知せらるるところで
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