彼《か》の鬼のような、獣《けもの》の頭のような、又は異形の鋸《のこぎり》のようなヘアピンを見ると、ゾッとするのを禁ずる事が出来ない。それは、震災後、彼《か》のヘアピンで傷つけられた男を二人程手当をしてやったからである。その一つは頸動脈のところ、今一つは眼の近くで、いずれもかなりの傷であったから理由を問うたところが、二人共顔を赤らめて語らなかった。しかしその傷から私は察して、兇器はヘアピンであると思った。あの式のヘアピンは閨房に於ける婦人の唯一の武器らしい。彼《か》のヘアピンの形は、婦人のヒステリー性や、サジスムス性を象徴した形をしている。流石《さすが》女性尊重の本家本元アメリカから輸入された事は争われぬ」
 おさし合いがあったら御免なさい。

     平民主義と風紀頽廃

 東京の上流人士が男女を通じてかように次第に堕落して行く原因の中に、今一つ記者の注意を惹いたものがある。それは古い言葉ではあるがデモクラシー世界の実現である。
 学生の鳥打帽――軍人の平服の事は前に書いた。畏《かしこ》きあたりの御事は申すも畏し、一般の華族と富豪とかいう者は、元来非常に見識を貴《たっと》ぶものである
前へ 次へ
全263ページ中39ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
杉山 萠円 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング