証拠に、最近の東京の街頭に異性と二人連れの姿を非常に多く見受けるのは記者ばかりでない。尤も、これを全部、街頭に於ける「理解ある結婚」の姿と名付けるのが無理ならば、単に「理解ある同伴」と云ってもいい。散歩もあろう。見物《みもの》、聞きものもあろう。しかしこの中に「買物のため」が沢山あるのは否まれぬ。
 前に述べた新東京の商売の模様を調べる序《ついで》に、店の者に聴いて見ると、
「近頃は御夫人連れのお客様が非常に殖えました。殊に御婦人の御趣味が高くなりまして、旦那様のお帽子からネクタイまで、なかなかお上手にお撰みになる向きが多いのです。殊にお帽子や何かにツヤツヤした毛のものとか、スベスベした絹のもの、又は冬の白い襟巻なんぞが流行《はや》りますのは、御婦人のお好みが大分まじっておりますようで……」
 と眼を細くして笑った。話だけでも身の毛が竦立《よだ》つようである。
 否、まだ恐ろしい話がある。

     変態性欲とヘアピン

 或る米国帰りのドクトルは記者にこんな話をした。
「近来、若い婦人は様々の形をしたヘアピンを挿しているが、最近では若い夫人でもよく用いるようになった。然るに自分は、
前へ 次へ
全263ページ中38ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
杉山 萠円 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング