のように露骨でないから、なかなか当りが付きにくい。又、相手が女で極めてデリケートな手腕を要するので、明治生れの、九州育ちの、しかも長男が七つにもなる記者にとっては不向きであった。
 その代り記者はあまり骨を折らずに材料を得た。つまり、記者の狙ったところは全部的を外れていた代りに、意外な方面から意外な暗示を得た。又は、思いもかけぬ材料が思わぬところで転がり込んでいるのを、あとから気が付いたなぞいう次第で、どちらかと云えば極まりの悪い方である。
 しかし、負け惜みにも何も、その他に材料が無いのだから仕方がない。記者が面喰らいながら材料を得て行くところが、却て読者の興味を引くかも知れぬ。

     芸道の先生お弱りの事

 或る芸事の先生の処で、昨年の夏頃からお嬢さん方のお稽古がパッタリ絶えた。昔の通りにあるにはあるが、皆出稽古で、稽古場には二三人しか居ない。
 その先生は変に思って、内々理由を調べて見ると、その稽古場がある付近が不良少年の本場だからという事であった。
 先生は弱った。
 折角焼け残った稽古場をほかへ移すわけにも行かず、思案に暮れていると、その中《うち》に又、その界隈が不良
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