少年の本場でも何でもない、そうしてお嬢さん方のお稽古の減った原因は、その習いに来ている少女の中に有名な不良少女が二人いる事を、お嬢さん方の家庭で知って警戒したためだとわかった。
 先生は、「早くそう云ってくれればいいに」と、上《うえ》つ方《がた》のお上品さんを怨んだ……しかし、とにもかくにもいろいろと苦心して、その二人の少女を遠ざけた。それから各家庭を訪問して、不注意を詫びた。おかげで今では昔にまさる繁昌をしているという。
 その令嬢たちの中の一人の保護者に、独身の女流教育家で、新聞や雑誌にチョイチョイ名を出す人がある。四十前後の、極《ごく》率直な、アッサリした人で、今の話をしてくれた揚句《あげく》、不良少女の男性誘惑法を記者に教えてくれたのには驚いた。
「私はまだほかに二三人の女生徒の親代りになっていますが、方々でいろんな事を聴きますよ。あなたもよくおぼえていらっしゃいよ。引っかからないように……」
「冗談じゃありません……」

     少年誘惑第一日

 東京の不良少女は、まだ少年のそれのように深刻な悪事を働かない。ただ男学生を誘惑して享楽する位が関の山らしい。それ以外の仕事をす
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