可笑しくなった。彼等の話を書き止めていたと思っているらしかったから……。
しかし記者は素直にノートを渡した。
青年は、「籠の鳥」の歌や看板の珍文句なぞを、たった二三枚だけ書いた本社用の新しいノートを見ていた。最後に表紙に付いた本社のマークをジッと見詰めて、当惑した表情をした。そうしてしきりに襟元を繕《つくろ》った。
記者はもう大丈夫だろうと思った。思い切って微笑しながら云った。
「失敬ですが、君は不良青年でしょう」
青年はハッとした。記者の顔をギラギラ睨みながら真青になった。
記者の胸の動悸が急に高くなって、又次第に静まって来た。同時に自分でも気障《きざ》に思われる微笑が腹の底からコミ上げて来た。
「僕はソノ……地方新聞の記者なんですがネ。不意にこんな事を云い出して失敬ですが……浅草の話を探りに来たんですが……生憎《あいにく》知り合いが無いんで……誰かこの辺の裡面を御存知の方に……と思いましてね……実はソノ……丁度いい都合だったんです……」
と不思議に言い淀んだ。
彼はスッカリうなだれて考え込んだ。
記者はベルを鳴らして女給を呼んだ。
「失敬ですが、お近付きに一杯差し上
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