記者の方を向いた。
「おめえ、東京初めてか」
「……ヘエ……」
「こっちへ来い」
記者は随《つ》いて行った。
鳥打帽は馬道へ出た。交番の前で又記者をふり返ってギョロリと見た……それからがよくわからないが、焼け木の積んである横路地を二つ三つ抜けて、夕顔を絡ませた新しい板塀にぶつかった。その横の切り戸を開いて、又、横路地のような処をすこし行くと、長屋式の板壁の途中に小格子がたった一つあった。そこを開くとすぐ狭い梯子段で、それを上って洋式のドアーを開くと……。
意外にも立派なカフェーの二階に出た。前はどこか知らぬがかなり賑やかな通りである。
鳥打はインバネスを脱いで、帽子と一緒に壁にかけた。記者もその真似をした。
二人は卓子《テーブル》を隔てて差向った。
擬《まが》い大島を着た二十ばかりの美青年である。「案外若い」と記者は心の中で驚いた。
何も云わぬのに美しい女給が珈琲を二ツ持って来た。
青年は飲んだ。
記者は飲まずに云った。
「何か御用で……」
青年は飲みさした茶碗をしずかに置いた。片手を懐にして肩を聳《そび》やかした。
「先刻《さっき》のノートを出し給え」
記者は又
前へ
次へ
全263ページ中208ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
杉山 萠円 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング