青い派手な鳥打帽と、黒のジミな中折れ帽が腰をかけていた。黒の中折れは何か気味悪そうに青い鳥打の話をきいていた。二人共まだ若かった。
記者はその横に腰をかけて、懐中からノートを出して何やら書いていた。
青い鳥打帽が二三度話をやめて記者をジッと見ていたが、突然声をかけた。
「オイ、オトッツァン。済まないが退《ど》いてくんないか。こちらの話の邪魔になるから」
記者はドキンとして顔をツルリと撫でた……風邪が抜けないので鬚蓬々《ひげぼうぼう》としていた。次に帽子を冠り直した……古ぼけた茶の中折れであった。おとっつぁんと呼ばれても文句は云えなかった。
記者は眼をパチパチした。
何だか可笑《おか》しくなりながら、相手の鳥打帽の下にキラキラ光る二つの眼を見た。虚勢を張っていたせいか、その光りがだんだん怖くなった。記者は静かに帽子を脱いで、わざと福岡弁で云った。
「共同椅子だすけん……よござっしょうもん」
鳥打は意味がわかったらしく、青い顔をサッと青くしたようであった。黒い中折れをふり返って云った。
「君はいいから行き給え」
黒い中折れはペコペコお辞儀をして去った。あとを見送った青い鳥打は
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