彼等の言葉は立ちん坊と同様に、最下等の江戸弁を今一つ下等にして、おまけに恐ろしく略した早口で云う。生え抜きの江戸ッ子でもわからない位であるが、醜業婦や女給はそれらをよく聞きわけて、彼等にわかるように云い聞かせるから、割りに面倒な用事が頼めるという。その代りその女たちの雇い主に発見されると、思い切り非道《ひど》い眼に合わされる。
その又《また》返報には、綽名を付けたり、汚物を入口にぬすくったり、小便を引っかけたりするという。勿論、いいも悪いもわからない。
彼等はこうして浅草公園内を全世界として、何の苦もなく、喰い且つ遊んでいる。そうして物心が付いて人間世界のわびしさを知る頃になると、何処へともなく消えて行く。
彼等の生涯は影のように無意味である。彼等の魂は天使のように悪を知らぬ。
あらゆる人間苦を集めた大都会の寂しい反映でなくて何であろう。
享楽の浅草の中心に沁み出た、はかない哀愁の影でなくて何であろう。
鳥打と中折れ
昨年の十月の或る日の正午――。
雨上りの青空が浅草観音堂の上一面にピカピカと光っていた。
瓜生岩子《うりゅういわこ》の銅像の横のベンチに、
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