した飲食の新店、又はその新しい雇人は、不良式ゴマ化しに持って来いの研究相手である。
 そんな飲食店の食器や備《そな》え付《つけ》品を、初めは楊子《ようじ》入れ位から始めて、ナイフ、フォークに到る迄失敬して、泥棒学のイロハを習う。だんだん熟練して、額縁や掛物、皿小鉢や鍋に及ぶ。
 いい洋食店なぞは入口でマントや帽子を預かるが、これが盗難警戒である事なぞは先刻御承知であろう。
 尤《もっと》もこの式は大人もやるが、若い者も面白半分に盛にやる。だんだん慣れて来て、こんな楽なものかと思うのが本手になる始まりである。喰い逃げもよくやるが、詐欺の第一歩である。
 澄まして喰物を注文してポツポツやりながら、椋鳥《むくどり》を見つけて話し込む。その中《うち》に都合よく表に飛び出す……といった式が一番ありふれている。ポット出の学生なぞはよくやられる。

     借りたインバネス

 大勢連れで露店を掻きまわしたり、飲食店の皿数を胡麻化《ごまか》したりするのは、東京に限らぬ学生たちのわるさである。
 隣席の客の下足札をすり換えて穿いて行く。あとでお客が面喰らうのを見ているとなかなか面白いという。面白いか
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