押え切れぬ勇気や智恵

 又、こんな風にして本物の不良は出来る。
 生れ付き智恵や勇気があり余った青年、自分の美貌や才智にうぬぼれた少女等は、よく平凡な田舎を嫌って東京に飛出す。しかし、そこで仕事に有り付いて、コツコツと働いて、結婚して、子供を設けて、平和な家庭を……そんな事で満足出来ない。
 何でも強い刺戟を受け続けて行きたい。いつも大勢をアッといわせて見たい……そんなのを「東京」は待ち構えて「生存競争の邪道」に陥れる。東京にはそんな「生存競争の邪道」が横路地の数だけある。
 精神的に悪い境遇に育ったもの、生れ付きヒネクレたもの、又は、良心欠乏、無智なぞいう先天的の犯罪性を帯びたものも、静かな地方を嫌って東京に出て来る。曇った空気を恋い、彩られた光りを慕って、それからそれと飛びまわるうちに金箔付きの不良になる。こんなのになると、この節の教育や制裁では押え切れない。説教すれば、抗弁するか泣くかする。拘引さるれば却って箔をつける。

     善良が不良に急変

 前にも述べた通り、「不良性」は要するに「人間性の卑屈な表現」である。即ち不良性は直《ただち》に人間性で、逆に云えば
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