宿っている。「何でも東京へ」とあこがれる気持ちの裡面には、自堕落によく似た自由解放や、虚栄と間違い易い文化的生活に対する欲望がチラ付いている。
あこがれの東京に着く。
震災後、思い切って華やかになった東京のすべては、彼等の眼を驚かし、耳を驚かす。面喰らって感じてドキドキキョロキョロする。
その中《うち》に落ち付いて来る。
新聞や雑誌で見聞きした東京の風物が、一々実物となって彼等を魅惑し始める。欲しいものがいくらでもある。好ましい男女の姿、羨ましくも自由に楽しげなその身ぶりそぶり、そのまわりに光り、かがやき、時めき、波打つもののすべては、彼等の心を惑わせ、狂わせ、躍らせずには措かぬ。その中《うち》でも「不良性」は真っ先にこの刺戟に感じ易い。
自分の心から生存競争の邪道へ
田舎出の少年少女は、東京の「不良」の誘惑がどんなに恐ろしいかを知っている。そんな忠告をうるさがりながらも、自分の清浄|無垢《むく》を信じている。「だから東京に行っても差支えはない」と思う……その心の奥に不良の種が蒔《ま》かれている事を気付かずにいる。そうして、只東京の「不良」の誘惑ばかりを警戒して
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