りと考え得る頭を持っている。それだけに人生に対して或る苦しい淋しい空虚を認めて、何物かを求めつつ悩んでいることがわかる。同時に、彼女の家庭も、学校も、宗教も、道徳も、彼女の魂の飢えを満たすべく何物も与えていない事がわかる。そのために彼女は、おぞましくも唯《ただ》性の労働に走るほかはなくなっている。空漠たる時間と空間の中に、只青春のときめき、それだけしか認めなくなっている。そうして不良とは知らずに、不良性の萌芽を心の奥に育ていつくしんでいる。それに対して、学校も家庭も無関心な冷たい眼で見ている。一方、不良少年は冷笑しているという、現代社会の時代相がありありとうかがわれる。
少女のラブレター(五)
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敏雄様……。
十五夜の月が、淋しく物思う地上の一人子を哀れむように照らしております。虫の声もいたしましたけど、何故にかく泣き止むのでしょう?
唯一人なのに……私はやはり淋しいのです……自分で淋しいと思うからなのでしょうけど、私達の若さに同情してくれる人はないのですもの……私の一番大事なお兄さま、昨夜は久しぶりで夢で御目にかかれました。
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