おり》や、万年筆用の黒いクリップが、ナイフや針で文字を彫って、異性の家の壁や約束の立ち木やに隠して、秘密通信をやるのに便利な事を知っている監督者も先ずあるまい。
 男のような字を書く娘、女のような字を書く息子が、変名を使って異性と通信しているに違いない事を看破し得る父兄もあまりあるまいと思う。
 まだまだ驚く事がある。

     大人に対する反逆

 近頃の少女はハンケチを畳んで、胸の肌に直接に押し当てている。又、男の子は帽子の中にハンケチを入れて冠っている。
 それは、少女はお乳をふくらすため、又、男の子は香水を湿《しめ》して入れておくためと思っていたら大違いだと、一人の不良少年が笑った。
 そんなら交換して異性の香《におい》を偲ぶためかときいたら、
「まあ、そんなところでしょう。ハハハハ」
 と又笑った。その笑い方が変だったから、根掘り葉掘り尋ねたら、彼は一種皮肉な、イヤな笑い方をしながら、こう答えた。
「それあ云ってもよござんすがね、あなた方に必要のない事なんです……何故ってあなた方は皆、情欲の方のブルジョアなんでしょう。奥さんもおなりになれば、芸者買いも出来る。だから必要はな
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