てボンヤリと明かし暮らす。
 親はそんなことに気付かぬ。

     ルパシカを着る息子

 たとえば息子がルパシカを着て喜んでいるとする。
 親は、単純な物好きか、又は社会主義にカブレたのかと思って叱り付ける。
 ところが見当違いである。本人は物好きでも社会主義者でもない。
 近頃の東京の若い女、殊に自堕落な気分に浸《ひた》る女の中には、そんな風な男を好く国もない。家もない。思想的に日本よりもはるかに広く思われる露西亜《ロシア》、政治上の最高権威者が労働者と一緒に淫売買いに行く国、婦人子供国有論が生れる国――そんな国にあこがれているために日本の社会から虐げられている青白い若い男……そんな男は小説を読む淫売なぞに特にもてはやされることをその息子は知っている。だからそんな風をするのだ。
 ……と知ったら、親はどれ位なげくであろう。
 まだある。
 机にかける布《ぬの》切り子やセルロイドの筆立て、万年ペンのクリップ、風呂敷、靴にまで現われている趣味を通じて、その子女が世紀末的思想から生れた頽廃趣味に陥っていることを見破り得る親は先ずあるまい。
 その持っているノートの黒い小さなゴムの栞《し
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