局、純然たる第一種の職業婦人に見える女性でも、その化粧ぶりを見ると、あらかたこの女はと思える事になった。
 第一種職業婦人式第二種職業婦人は、かように到る処に居るには居るが、慣れない者には猿猴《えんこう》が月で手に取る方法がわからない。
 但、この道の通人を友人に持っていれば訳はない。どこのタイピストはどこの煙草屋のおやじが世話をしている。どこの女店員はどこの桂庵が一手販売だ。あそこの工女は何というゴロツキの縄張りで、どこの缶詰屋で切符(線香?)を売っているなぞと、わけはない。

     専門又はデパート式別嬪屋

 京橋|木挽《こびき》町の或る大建築の前の缶詰兼洋酒類煙草屋は、震災前、海軍大学その他、高等海員向きの女の世話をするので通人間に知られていた。今もあるかどうか知らぬが、こんな風に職業婦人を紹介する処が、今では東京市中到る処にあると云っていい。どこの工女とか、女店員とか専門のもあれば、お望み次第のデパート式もポツポツある。そこで一度顔なじみになれば、別の専門へ紹介してくれるのもあるそうな。
 線香、席料なぞは芸妓と似た組織で、もっと手軽で安値で自由であると思えばいい。勿論、ここに述べた第二級、第三級の職業婦人も同様である。このほか、カフェーや料理屋の密室組織もあるが、古めかしいから略する。
 友人の紹介でこんな処に行くのは、安心であるが興味が薄い。勇敢な連中は新しい処を新しい処をと探す。今一歩進んで直接交渉や街頭の奇襲、又は家庭訪問などと出かける英雄もいる。その結果、田舎者と同様の失策をやる事が珍らしくない。

     あとをつけたら警察署長官舎へ

 カフェーで飯を喰っているうちに、これは素敵と見当をつけてあとをつけたら、電車に乗って山の手へ来た。その降り口の交番の巡査がその女に敬礼をしたから、これは珍だとついて行ったら、或る門構えの家へ這入った。どうも変だから最前の巡査にきいてみたら、「あの家は警察署長の官舎です」……。
 マッサージをやる美人後家の下宿をねらって這入ったら、奥の間に脊髄病の入れ墨男が居て、その後家を女衒《ぜげん》の手先に使っていた……。
 さる三人の女タイピストが居る会社に定宿直をする四十男が眼付きの怪しいところに見当をつけて、夕方その男を電話で呼び出してタイピストの世話を頼んだら、「すぐにお出《いで》なさい」と云った。行って見た
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