ら危うくなぐられそうになって、命からがら……。
……なぞと嘘か本当か限りもないが、この辺で略する。
成功談も無論ある。バラック都市の人々は、寄るとさわるとこの種の新発見の話ばかりしている。しかし、あんまり紹介すると一種の奨励になるから、その中でも最も新しい、且つ事実に相違ないところを綜合して二三紹介する。
素晴らしい秘密の一夜
嘗《かつ》て、丸ビルの靴磨きが女事務員のブローカーである事が某雑誌で素《す》ッ破《ぱ》抜かれると、そのおやじは早速消え失せた。しかし、そのあとが決して消滅した訳ではない。石川や浜の真砂と同じ事である。
但、靴磨きだけは、その後、或る種の恐慌を感じたという。
ずっと前の項で秘密画売買の件の中に、普通の美人写真の絵葉書ばかり持っているのがあるとだけ書いておいた。その大道で秘密に売る普通の美人絵葉書は、大抵一枚七八円から四五円迄ある。黙ってこれを買うと、向うから時間と場所を云う。終夜か半夜かと聞くものもある。聞かぬのもある。
そこへ出かけると、表はつまらぬ家だが、裏には一寸した室が二つか三つ以上ある。そこに控えていると、約束に一分違わず、最前買った絵葉書の主が出て来る。
喰い物や飲みものは出前で取る。火鉢、座布団、その他は、その家から賃借りをする。気の利いた処になると、床の間の掛物、屏風、机、電燈の燭光まで金ずくで、相手が美しいと、総計三十円も奮発すればとても素晴らしい一夜が明かせるという。飽く迄もバラック式の文化式である。
第二職業婦人仲介業いろいろ
この手の商売が絵葉書屋にもある。
記者は東京市中の秘密出版物の景況を探る目的で、絵葉書屋を見当る毎度《たびごと》に飛び込んで、
「男の裸体の絵葉書はないか」
ときいてまわった事がある。その返事は大抵、
「御座いません。その筋が八釜しいので」
という意味のものであった。そこで女の裸体の絵葉書を出していろいろ話していると、秘密画を出して見せるところもあるが、前に説明した高価な美人絵葉書を出して見せるところもある。
大道の美人絵葉書売りと違って、店で売るのは種類が多いのが通例である。
「これは特別のですが、如何様で……」
とニヤリと笑う。人が見ていても、価格さえ聞かねば、普通の絵葉書と変りはないのだから便利である。
気に入ったのがあれば、そこで協商が
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