彩《いろど》っているは、実にこうした職業婦人なのである。
「ナアニ、そんなに秘密でもなければ珍らしくもないよ」
 と云う人があったら、その人は新東京人のチャキチャキである。それだけ東京人の堕落に対する批判の公平を喪っているものと見ねばならぬ。

     白昼街頭の怪しい女のむれ

 丸ビルの悪魔式少女団の話は早くも過去の夢になった。
 彼女達の重立《おもだ》った者は、数名一団となって或る店に雇われていた。鉛の強いお化粧をコテコテと塗って、青い事務服を着て、店一パイの硝子《ガラス》窓の前に並んでカチャンカチャンとタイプライターを打っていた。その向うに四十代と二十代と二人の好男子が、リュウとした背広を着て、腰をかけて見張っていた。お客はあまりないようであった。
 通りかかりの人が大勢、冷たい硝子窓に額や頬を押つけて、そのカチャンカチャンを飽かずに見ていた。
 まだこのほかにも丸ビルには、彼女たちと似たようなお化粧ぶりの女がいくらもいた。
 否、ここばかりでない。有名な駅の切符売場、郵便局の窓にも、問題の女がチョイチョイ居るのを見た。
 銀座の或る菓子屋には、欧州風の部屋着の揃いに、揃いの頭、揃いの髪飾りの美少女が五人、輪を作って椅子に腰をかけていた。只それだけの役目らしく、お客が来ると男の店員が代って応対をした。
 神田の某文具店の女店員は、鉛筆部、ノート部、帳簿部、万年筆部といった風に受け持ちがあって、勘定一切の責任を負うている。仕事は親切で態度も慎ましやかである。しかもそれが化粧は揃いも揃って夜の光線向きで、一見怪しい女だと思わせられた。
 某大百貨店と某大呉服店の女店員(茶酌み女も含む)が平均十円程度の売り物である事は、上流の貴婦人にもかなり知られているらしい。
 これに対抗して銀座の或る大ビルの事務所では、事務員に東京生れの醜婦ばかりを集めているとこの頃聴いた。事実とすれば、東京人の堕落に対する一種の裏書とも考えられる。

     近代式挑撥的化粧法

 この式に見てまわると、東京市中美人ならざるなしである。殊に最近、印象派とか、表現派とかの絵が極めて通俗的に流行するようになったので、女は皆お化粧が上手になって、美人でなくとも挑撥的には見える化粧法が発達して来た。この傾向は第二職業を持つ婦人に特に有利で、そのためか東京市中の女が特に毒々しく引立って見える。結
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