関係はこんな調子になっていた。
全人類の不良傾向
ところが、この事なかれ式の圧迫的教育法が、最近数年の間に大きなデングリ返しを打った。
理窟詰めの禁欲論、味もセセラもない利害得失論で少年少女の不良性を押さえつける事が不可能な事を知った学校と社会とは、慌てて方針を立て直した。正反対の自由尊重主義に向った。
この傾向には過般の欧州大戦が影響している。
欧州大戦は民族性や個性の尊重、階級打破、圧迫の排斥なぞいう、いろんな主義を生んだ。それは皆、今まで束縛され、圧迫されていたものの解放と自由を意味するものであった。
世紀末的の様子や主張、ダダイズム、耶教崇拝、変態心理尊重等いう、人類思想の頽廃的傾向がこの中から生み出されて、更に更に極端な解放と自由とを求むる叫びが全世界に漲《みなぎ》った。
「自分の権利はどこまでも主張する。同時に何等の義務も責任も感じないのが自由な魂である」
というような考えが全人類の思想の底を流れた。
このような思想は不幸にして、人間の人間味を向上させるためには無効力であった。却って不良性を増長させるのに持って来いの傾向であった。全人類の享楽性はここから湧いた。
学校と父兄が生徒に頭が上らぬ
日本人の頭は何等の中心力を持たぬ。「正しい」とか「間違っている」とかいう判断の標準を持たぬ。「善」とか「悪」とかいう言葉よりも、「新しい」とか「古い」とかいう言葉の方がはるかに強い響を与える。
そこへこの世界的不良傾向が流れ込んだからたまらない。
政治、宗教、芸術、教育方面には特に著しくこの傾向が現われた。昇格問題や徴兵猶予、又は無試験入学に関する各種の運動、又は官私立の区別撤廃といったような叫びが起った。
自発的教授法、自由画、自由作文、児童の芸術心を尊重するという童謡、童話劇、児童劇なぞが盛に流行した。何事も子供のためにという子供デーなぞが行われた。「子供を可愛がって下さい」というような標語が珍らし気に街頭で叫ばれた。
それまではまだ無難である。
尋常一年生位が遅刻しても、
「まだ子供ですから」
という理由で叱らない方針の学校が出来た。大抵の不良行為は、「自尊心を傷つける」という理由で咎《とが》めない中学校が出来始めた。
親が子供を学校にやる時代から、子供が学校に行ってやる世の中になりかけて来た。
先生
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