、吾が九州地方の少年少女に如何に影響しているかがわかるのは今からでなければならぬ。その病的傾向は各地でこの春に芽を吹き、来るべき夏に全盛期を見せ、秋に到って固定するというのが順序である。
 新東京の堕落時代……あの大震火災の翌年、即ち大正十三年度中に見せた東京人の腐敗堕落が、如何に地方に影響しているかがわかるのはこれからである。

     青春の悩みと社会

 少年少女(青年処女をも含む)時代には先祖代々からの遺伝がみんな出て来るという。
 獣《けもの》のような本能、鳥のような虚栄心、犯罪性、残虐性、破壊性、耽溺性などいうのが下等の部類に属するのだそうである。上等の方では事業欲、権勢欲、趣味欲、研究心、道徳心、宗教心、英雄崇拝心なぞいずれも数限りない。
 この中で下等の方は堕落性、上等の方は向上性とでも云うべきものであろうが、今の社会ではこの向上性をも一種の危険性と認めて、この堕落性と共に不良性の中に数えている場合が多い。少年少女がこんな性質を無暗《むやみ》に発揮してくれると、教育家は月給や首に関係し、父母は面目や財産に関係し、当局は取締に手古《てこ》ずるからであろう。
 要するに、今の社会が少年少女の不良性とか危険性とか名づけているものは皆、若い人間の心に燃え上る人間性に外ならぬ。
 或る哲学者はこの時代を人間の最もキタナイ時代だと云った。又或る者はこの悩みを世界苦とも名づけた。
 この青春の悩みを煎じ詰めると、芳烈純真なる生命の火となって永劫に燃えさかえる。この世界苦を打って一丸として百練千練すると、人類文化向上の一路を貫ぬく中心力[#「中心力」に傍点]が生れるという。しかし、そんな事を体現したり、指導したりするような、物騒な教育家は居ないようである。
 だから、彼等少年少女は、自分勝手に迷い、疑い、悩んで行かねばならぬ。何か掴みたいとワクワクイライラしながら、夢うつつの時間を過ごさねばならぬ。だから、ちょっとした事でも死ぬ程亢奮させられる。

     大人の堕落性の子女に対する影響

 かような少年少女の悩みに対して、日本人の大人はどんな指導を与えて来たか。どんな模範を示して来たか。
 彼等少年少女の宗教心、道徳心、芸術心、野心、権勢欲、成功欲等のあこがれの対象物である宗教家、教育家、芸術家、政治家、富豪等は皆、その誘惑に対する抵抗力が零であることを示して
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