何だ……最前の気狂いじゃないか……
三平は腕まくりをした。奮然と詰め寄った。
何が気違いだ……憚《はばか》んながら……
親方が三平を遮って警官にお辞儀をした。
若い者が警官に男を引き渡した。
警官は男に手錠をかけて短刀と煉瓦を拾った。親方と娘と三平を連れて警察に帰った。
―― 7 ――
警察に駈け込んで来た質屋の親仁《おやじ》の禿頭は娘の顔を見ると泣いて喜んだ。手錠をかけられた男を見ると掴みかかろうとした。
親方は遮り止めて事情を話した。
禿頭は三平を伏し拝んだ。娘を三平の前に連れて来て礼を云わせた。
娘はチョッと色眼を使って三平の前に三ツ指を突いた。
三平は変梃《へんてこ》な身ぶりで礼を返した。
親方と警官は腮《あご》を撫でた。
手錠をかけられた男は恐ろしく面《かお》を膨《ふく》らした。
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光明か暗黒か
―― 1 ――
眼科の開業医丸山養策は数年前妻を喪《うしな》ってから独身で暮して、一人娘の音絵《おとえ》にあらゆる愛を注いだ。
音絵は当年十九歳で女学校を優等の成績で卒業し、女一通りの事は何くれとな
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