きながら左手を三平の肩にかけて顔をのぞき込んだ。
 お金は……
 三平は左手で煉瓦の包みをさし出した。
 男は受け取りかけてビックリして手を引いた。
 三平は平手で男の横っ面《つら》を打った。
 男は飛び退《の》いて短刀をふり上げた。
 三平は煉瓦で、男は短刀で立廻りを初めた。
 娘は仰天して駈け出した。
 三平は煉瓦を投げると男の胸に当った。
 男は引っくり返った。
 三平は馬乗りになった。短刀を奪って投げ棄てた。
 男は下からはね返した。
 上になり下になり揉《も》み合ったあげく三平は組み伏せられて咽喉《のど》を絞め上げられた。
 ヒ……人殺し……
 男は短刀を拾おうとした。
 三平は拾わせまいとした。声を限りに叫んだ。
 泥棒……人殺しッ……
 男は三平を突き放して逃げようとした。
 三平は帯を引っぱって武者振り付いた。
 材木屋の若い者が大勢飛び出して来て二人を取り巻いた。
 三平は叫んだ。
 おれあ三平だ……
 こいつが泥棒だ……
 若い者が二三人男に飛び付いた。散々になぐり付けた。
 警官が質屋の娘と一所《いっしょ》に駈け付けた。
 警官は三平の顔に懐中電燈をつき付けた。

前へ 次へ
全48ページ中6ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
杉山 萠円 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング