智恵子さんには……
  いずれまた……
 徳市がヒョッコリ応接間から出て来た。笑いながら時子に何か云おうとして万平の様子に眼を付けた。サッと顔色をかえた。
  アッ……
  どこに行くんです……
  僕を残して……
 万平はイヤな顔になったが間もなくニッコリした。
  ナニ……チョッと急ぐからね……
  お前はゆっくりしたがいい……
  あとから事情を話すから……
 徳市は時子と万平の顔を見比べた。
 時子は智恵子に事情を話した。
 智恵子は万平と徳市に感謝の頭《かしら》を下げた。徳市の手を取って固く握り締めた。
 徳市はブルブルと身を顫《ふる》わした。
 万平は徳市に凄い眼付きをチラリと見せながら帽子を脱いで、一同に一礼すると悠々と入口の扉に手をかけた。
  では……
 徳市は呆然と見送っていたが忽ち恐ろしい顔になった。万平に飛び付いて鞄を引ったくった。書斎へかけ込んで手提金庫の中から札の束を掴み出し、鞄の中の株券と入れかえると無言のまま万平の前に突き出した。扉の外を指《ゆびさ》した。
 万平は凄い顔をしながら鞄を受け取った。
  何をするのだ……
  気でも違ったか……
 徳
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