……
  何も御座いませんけど……
  お忙しいところ恐れ入りますけど……
 万平は徳市に眼くばせ[#「くばせ」に傍点]しながら一二度辞退した。
 徳市はワナワナきょろきょろした。
 万平はとうとう承知した。
 三人は喜んだ。万平を取り巻いて自動車に乗り込んだ。
 二三名の紳士が智恵子のあとを見送って眼を丸くし合った。
  凄い腕だな……
  驚いた……
  あの男嫌いが……

     ―― 14[#「14」は縦中横] ――

 万平と徳市は星野家で晩餐の御馳走になった。
 万平は帰りともながる徳市を引立てるようにして暇《いとま》を告げた。

     ―― 15[#「15」は縦中横] ――

 徳市は単身背広姿で星野家を訪れた。
 智恵子|母子《おやこ》は引き止めてなれなれしくもてなした。
 徳市は盛んに母子の機嫌を取った。すっかり母子と打ち解けてしまった。
 母親の時子は徳市を深く信用したらしく真面目な内輪《うちわ》の話を初めた。
 徳市は勿体ぶって軽くうなずきながら聞いた。幾度かあくびを噛み殺した。
 時子は熱心に話を進めて最後に云った。
  今手許にある株券を……
  三万円
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