で売りたいのですけど……
あいにく今は安いので……
徳市は三万と聞いて眼を丸くした。そうして妙に鬱《ふさ》いでしまった。
智恵子は気軽に笑いながら云った。
あなたの叔父様に……
買って頂けませんかしら……
あなたなら尚更ですけど……
徳市は絶望的に頭を左右に振った。一層鬱ぎ込んだ。
智恵子は徳市の顔をのぞきながら心配そうに問うた。
あなたの叔父様は……
厳格な方……
徳市はすっかり鬱ぎ込んでしまった。絶望的に云った。
そうでもないんですけど……
とにかく相談してみましょう……
智恵子母子の眼は急に輝やいた。熱情を籠めて云った。
ええ……
是非どうぞ……
徳市はうなだれて星野家を出た。
その時来かかった王冠堂の番頭久四郎は徳市とすれ違うとふり向いた。たしかに徳市と認めると帽子を眉深《まぶか》くしてあとをつけた。
―― 16[#「16」は縦中横] ――
徳市はボンヤリと山勘横町へ来た。憲作の事務所の扉を押した。階段を昇った。
久四郎は入口の処であたりを見まわした。入口の扉に耳を寄せて徳市の足音を聴いた。そのまま近所の
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