った。その角の家の硝子《ガラス》扉を押してふり返った。
徳市はその家の小さな表札を見た。
┌────────┐
│ 津島貿易商会 │
└────────┘
紳士は眼くばせをして中に這入《はい》った。
徳市も這入った。中は立派な事務室であった。
紳士は手ずから瓦斯《ガス》ストーブに火をつけて電気をひねった。その前の椅子に徳市を坐らせて差し向いになった。机の上の呼《よ》び鈴《りん》を押した。
次の室《へや》へ通ずる入り口から眼の覚めるような美人が現れた。愛想よく叮嚀に徳市にお辞儀をした。
いらっしゃいませ……
徳市は慌てて礼を返した。
美人は戸棚の内からウイスキーの瓶とコップを取り出して、二人の中に並べてなみなみと注《つ》いだ。
徳市はお辞儀しいしい吸い付いた。
紳士も一息に干した。
美人は又一杯注いで叮嚀に徳市に一礼して次の間へ去った。
紳士は溢るるばかりの愛嬌を見せて徳市に云った。
承知してくれるでしょうね……
徳市は飲みさして顔を上げた。口を拭いて真面目な顔になった。肩で息をしながら云った。
どんな仕事でしょうか……
紳士はますますニコニコ
前へ
次へ
全48ページ中24ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
杉山 萠円 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング