はうなだれて合宿の方へ歩いた。途中のバアの前で何度も立ち止まったが、懐《ふところ》へ手を入れると諦めて歩き出した。
―― 3 ――
徳市はとある淋しい横町を通りかかった。
立派な紳士が一人徳市のうしろから現れた。徳市の様子に眼をつけるとツカツカと近寄って肩に手をかけた。
徳市は立ち止ってふり返った。
紳士はニコニコして云った。
若いの……
一寸《ちょっと》そこまで来ないか……
うまい仕事があるんだが……
徳市は帽子を脱いだ。オズオズしながら云った。
どんな御用ですか旦那……
紳士は又ニッコリした。
今夜十二時迄……
君の身体《からだ》を借《か》してくれれば……
十円上げるがどうだね……
徳市は妙な顔をした。しかし又思い直した。決心したらしくお辞儀をした。
お伴しましょう……
紳士はうなずいた。ポケットから煙草を出して徳市にすすめた。マッチを擦って徳市のにつけてやり自分も吸い付けると、先に立ってあるき初めた。
徳市も従《つ》いて行った――横町から――横町へ――
―― 4 ――
紳士はとある路地の入口で立ち止ま
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