放蕩を初めているところ……
……親戚や朋友の忠告をはね[#「はね」に傍点]つけているところ……
……とうとう一文無しになって馴染《なじみ》の女の処へ無心に行き愛想《あいそ》尽かしを喰って追い出されているところ……
……自棄酒《やけざけ》を飲んでますます落ちぶれて行くところ……
そんな夢を次から次へ見ている最中に徳市はお尻の処を強く蹴られて眼を覚ました。
彼は穢《きた》ない仕事着を着て石の上に腰をかけていた。前には人夫頭の吉《きち》が恐ろしい顔をして立っていた。徳市は眼をこすった。
吉は徳市の尻を今一つ強く蹴った。
又なまけていやがる……
早く仕事をしないか……
徳市は不承不承に立ち上った。道路工事の水揚《みずあげ》ポンプの柄《え》につかまった。
―― 2 ――
吉は仕事を仕舞《しま》って帰って行く人夫の群れを見送った。
徳市は吉の前に進み寄った。帽子を脱いでペコペコした。
済みませんが給金をすこし……
吉は彼を押し飛ばした。
間抜けめ……
貴様みたいな奴は喰わしておくだけでも損が立つんだ……
吉はそのままスタスタと去った。
徳市
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